#ワインと私のショートストーリー vol.1

「ワインがもっと気軽に楽しめるお酒であることを知って欲しい」

そんな想いで集まった「35歳」という共通点を持つ店主たちが、たった一人の「35歳」に焦点を当て、

暮らしの中に優しく寄り添うワインとの物語を紡いでいくコーナー。

仕事、恋愛、結婚、子育て…第二の人生のスタート地点とも言われる35歳。

酸いも甘いも知り尽くし、良い意味での「諦め」と未来への「可能性」の中で揺れ動く人生のターニングポイントで、

同世代のみんなはどのようなことを感じ、日々を営んでいるんだろう?

私たちと一緒に覗いてみませんか?

※物語は全てフィクションです。

 


 

situation01 「この想いに蓋ができたら…」 〜ポッジョ レ ヴォルピ ・ゼット ジンファンデル〜

 

久しぶりに開いたインスタグラム。

一番上に出てきた投稿を見て、鼓動が高鳴った。

昔付き合っていた彼の、いわゆる「結婚報告」の投稿。

「結婚したんだ…。」

出会ったのは、新卒で入った会社の入社式。

たまたま席が隣同士になった私たちはすぐに意気投合し、

お互いを意識するようになるまで、そう時間はかからなかった。

自然な流れで付き合うようになったけど、

今振り返ってみても特別な思い出なんてなんにもなくてー。

 

休みの日に外でランチしたり、好きなバンドのライブに行ったり…

なんでもない普通の日に、彼おすすめのワインを片手に夜な夜な映画を見る時間が一番好きだったな。

 

甘い言葉も恥ずかしがることなく真っ直ぐに伝えてくれて、

いわゆる「クール系」だった私も、2人でいるときだけは素直で可愛い「私」でいることができた。

いつからだったかー。

お互い仕事が忙しくなって、会う頻度が減ってしまった。

仕事が楽しくて仕方なかった私は、「会いたい」というメールに、「ごめん」で返すことが増えていた。

 

27歳のとき、キャリアアップのために決断した転職。

別れを切り出されたのも、ちょうど同じ時期だった。

 

もちろん、悲しくなかったわけではない。

だけど、仕事に夢中だった私にとって、この別れは「仕方ないもの」だと割り切ることができた。

 

「離れても、ずっと応援してる。」

 

彼の最後の優しさだったのだろう。

これまでどんなに仕事で辛いことがあっても その言葉があったから、がむしゃらに走り続けてこられたのにー。

 

写真の彼は、すごく幸せそうな顔で笑っていた。

そう、私に見せてくれていたのと同じ、あの笑顔で。

一つだけ違うのは、隣にいるのが私ではないこと。

 

隣にいる女性は、背が低くて、肩にかかるくらいの短めの髪は、ゆるめのパーマがかかっている。

 

「私と真逆のタイプじゃん!」

思わず笑ってしまった。

私が仕事に打ち込んでいる間、この女性との愛を育んできたのだろう。

私だって、別れた後もそれなりの恋愛はしてきた。

だけど、心のどこかで彼を想い、その姿を重ね合わせていた。

 

もしあのとき、「会いたい」の連絡に答えていたら、この写真の隣には、笑顔の私がいたの?

そして、この笑顔を独り占めすることができたのだろうか。

 

誰もいない家に戻ったとき、私の中で何かがプツンと切れる音がした。

 

「好きだった」じゃない、今も「好き」なんだー。

 

彼の中の私が、いつまでも「特別な存在」のままでいられると、どこか過信してしまっていたのだろう。

 

別れてからも心の支えにしていた、「ずっと応援してる。」という言葉が、

十字架のように私にのしかかる。

 

「応援なんていらないから、私の側にいてよ。」

 

会社でもそれなりのポジションになり、自分の思い描く理想の姿に近付けた。

それなのに、35歳になった今でも、中身はあまりにも幼く、か弱いままだったなんて。

 

途方もなく溢れ出すこの想いに蓋ができたら、どれだけ楽になれるだろう。

だけど、今日はとことんこの想いに浸りたい。

それが、35歳の今の「私」を保つためには、必要なことだから。

 

ネットでたまたま見つけて、「夜更かししたい人におすすめ」という言葉に惹かれて買った

”ポッジョ レ ヴォルピ ・ゼット ジンファンデル”という赤ワイン。

 

いつか特別な日に…と思っていたけど、今日開けてしまおう。

甘くて飲みやすいけど、アルコール度数は少し高め。

ガツンと飲みたい今の私に、ぴったりなワインだ。

ワインと一緒にこの想いを味わうことができたら、もっと大人になれるのだろうかー。

 

「今日はまだ眠りたくないな。」

 

そうだ、彼と一緒に見た映画でも見返そう。

このワインとなら、今の「私」を守りながら、思い出に浸れそうな気がする。

 

酔ってきたのが自分でも分かってきた頃、

インスタグラムを開いて、そっとハートボタンを押した。

 

”おめでとう”とコメントできるほど、私は強くない。

せめて、最後まであなたの中で生きる「私」は、

かっこいいままの「私」でいさせてー。

 

「私のこと、一生忘れないでよね。」

 

そう願いながら、ワインと共に夜は更けていくー。

 

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▼ポッジョ レ ヴォルピ ジンファンデル▼

 

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